Chapter 197 - Mushoku no Eiyuu ~Betsu ni Skill Nanka Iranakattan daga~ - NovelsTime

Mushoku no Eiyuu ~Betsu ni Skill Nanka Iranakattan daga~

Chapter 197

Author: Kuzu Shichio | 九頭七尾
updatedAt: 2025-08-16

正直、壇上で彼女が何を話したのか、僕はまったく覚えていない。

    四年前よりも綺麗になった彼女に見惚れてしまっていたからだ。

    セレスティアさん、か……。

    この国の王女様だったなんて。

    まぁ考えてみたら、あのとき出会った場所はお城だ。

    普通の女の子じゃないよね。

    「おい、アーク!」

    「……ランタ? どうしたの?」

    気づいたらランタに身体を揺すられていた。

    「どうしたの、じゃねぇよ。さっきから呼んでるのにお前、ずっと上の空だしよ。入学式、終わったぜ?」

    言われて周りを見回してみると、僕たち以外の新入生たちはすでに席を立ち、大講堂から出ていこうとしているところだった。

    結構混み合っている。

    「それにしても王女様、綺麗だったなぁ。俺、この距離で拝見したのは初めてだ」

    「う、うん」

    「まさか同じときに通えるなんてよ。マジで受かってよかったわ。……魔法科なのが残念だけどな」

    どうやら彼女は魔法科らしい。

    武術科とは校舎が違うし、女の子なので当然、寮も違う。

    いや、そもそも寮になんて入ってないか……。

    いずれにしても同じ学校に通うとはいえ、接する機会なんてなさそうだ。

    ようやく混み具合が解消されてきたので、僕たちは立ち上がった。

    人が捌けてきた入り口へと向かう。

    「けど、レイラちゃんも可愛かったなぁ」

    「ん? レイラ?」

    ランタの口からなぜか双子の妹の名前が出てきて、僕は面食らった。

    「新入生代表で挨拶してた子だよ」

    「そう言えば」

    何でレイラが壇上にいるんだろうと、ぼんやり考えたような記憶がある。

    今さらながら、ちゃんとできたのだろうか……?

    「しかしあの子も魔法科か……いいよなぁ、魔法科は……」

    ランタは羨ましそうに呟く。

    「てか、お前、レイラちゃんに似てるよな?」

    「うん。だって――」

    「よお、ちょうどいいところにいるじゃねぇか」

    大講堂を出たところで、会話に割り込むように声をかけてくる人物がいた。

    ガオンさんだ。

    いつものようにイザートさんもくっ付いている。

    ランタが警戒する中、ガオンさんが僕の方を見て言った。

    「お前、今からオレが言うものを買ってこい」

    「え? それってもしかして……」

    パシリきたぁぁぁぁぁっ!

    先輩後輩と言えばパシリ。

    パシリと言えば先輩後輩だ。

    物語の中でしか知らなかった青春の一つを、現実で体験することができるなんて。

    「分かりました!」

    「お、おう……やる気あるじゃねぇか」

    僕の返事に、ガオンさんがなぜか顔を引き攣らせた。

    けれどすぐに口の端を意地悪そうに歪めて、

    「天気堂っつーパン屋があるんだが、そこのコロッケパンというパンが美味いんだ」

    コロッケパン、美味しいよね。

    前世だと定番だったけど、こっちの世界では初めて聞いた気がする。

    異世界にもあったんだ。

    「そのコロッケパンを買って来ればいいんですね?」

    「ああそうだ。まだ昼飯まで時間があるが、小腹が空いちまったからな」

    「分かりました。すぐ行ってきます」

    僕が出発しようとすると、ランタが慌てて、

    「お、おい、お前、天気堂がどこにあるか知ってんのか?」

    「あ、知らない。知ってる?」

    「もちろん知ってる。有名なパン屋だからな。けど、都市の真反対だぜ? 往復したらどれぐらいかかると思ってんだ」

    都市の真反対か。

    頑張れば五分くらいでいけるかな。

    僕はランタから詳しい場所を教えてもらった。

    「じゃ、行ってくる」

    「……頑張れよ」

    なぜか憐れむような目をするランタ。

    ガオンさんたちはニヤニヤと笑っていた。

    五分後。

    僕は目的のコロッケパンを無事に手に入れ、学院へと戻ってきた。

    「ガオンさんたちはどこにいるだろう?」

    大講堂の前にはすでにいなかったので、探さないといけない。

    だいたいの気配は覚えているし、そう難しいことじゃないだろう。

    「いた。屋上か」

    ガオンさんたちがいたのは武術科の校舎の屋上だった。

    なんだか臭いなと思ったら、ガオンさんとイザートさんが葉巻を吸っていた。

    生徒が葉巻を吸うのは禁止されている。

    だから屋上で隠れて吸っているのだろう。

    すごく学校っぽい!

    「ランタ、お前も吸ってみろよ」

    「い、いや、俺は……」

    「ああ? オレが吸えって言ってんだよ」

    「わ、分かりました」

    ランタが葉巻を強要されていた。

    もうすっかりガオンさんの子分だ。

    「買ってきました!」

    「……は?」

    元気よく声をかけると、ガオンさんが唖然とした顔でこっちを見てくる。

    葉巻が口からぽろりと落ちた。

    「う、嘘つくんじゃねぇよ! こんなに早く戻って来れるわけねぇだろ!」

    「いえ、ちゃんと買ってきましたよ?」

    僕は買ったばかりのコロッケパンを渡す。

    たぶんイザートさんとランタも食べるだろうと思って、三人分だ。

    ちなみに僕はもう食べた。なかなか美味しかった。

    受け取ったガオンさんは目を剥いた。

    「ま、マジでコロッケパンだ……ほ、本当に元気堂のだろうなっ?」

    「そうですよ」

    「確かに、あそこにしか売ってないパンだが……。しかも、温かい、だと……?」

    運よく揚げたてが手に入ったので、保温しながら持って帰ってきた。

    一番美味しい状態で食べることができるはずだ。

    ガオンさんがコロッケパンに齧りつくと、さくり、良い音が鳴った。

    「う、うめぇ……」

    そのままガオンさんは一気に食べ尽くしたかと思うと、二個目、三個目と、一人ですべて食べてしまった。

    イザートさんとランタの分だったんだけど……まぁいっか。

Novel